大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 昭和38年(あ)1071号 判決

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役一年に処する。

但し、この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。

被告人から金二万円を追徴する。

当審における訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

名古屋高等検察庁検事長柳川真文の上告趣意について。

原判決が、刑法一九条二項の「犯人以外ノ者ニ属セサルトキニ限ル」というのは、犯罪行為に因って得た物やその対価物が、犯人以外の者の所有に属し、同人に物上請求権の成立するような場合のみならず、これらの者から何等かの請求権の行使が認められる場合には、没収、ひいては追徴も許さない趣旨と解しなければならない旨判示していることは、所論のとおりであり、又論旨引用の大審院明治四二年(れ)第六九八号同年六月二四日判決及び同大正四年(れ)第六九六号同年五月二二日判決が、同法一九条二項の「犯人以外ノ者ニ属セサルトキニ限ル」というのは、犯人以外の者が、その物の上に所有権その他の物権を保有する限り、これを没収することができない趣旨を明らかにしたものであって、単にその物に関して債権を有するに過ぎないときは、没収の妨げにならない旨判示していることも所論のとおりである。従って、原判決が、右条項の解釈について、論旨引用の右大審院判例の趣旨と相反する判断をしたことは明らかである。そして、当裁判所は、右大審院の判例は、なお維持すべきものとするのであって、これを変更する必要を認めない。

ところで、原判決の認定した事実によれば、本件において、被告人が業務上保管していた合資会社大和石油店所有の重油を売却横領することによって取得した現金合計約八万円は、被告人の所有に帰したものと認められ、かつ他人の物権を負担していたものとは認められないから、右大審院の判例の趣旨に従えば、たとえ、被告人において被害者から右現金に関して何等かの債権的請求権の行使を免れなかったとしても、そのことは、右現金を没収することの妨げにならないものというべきである。従って、その没収に代る追徴も許されなければならない。論旨は理由があり、原判決は、刑訴法四〇五条三号、四一〇条一項本文により破棄を免れない。

よって、同法四一三条但書により、被告事件について更に次のように判決をする。

原判決の確定した事実に法律を適用すると、被告人の判示各所為は、いずれも刑法二五三条、六〇条に該当するところ、以上は同法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により、犯情の最も重い判示第三の罪の刑に法定の加重をし、その刑期範囲内で被告人を懲役一年に処し、情状により同法二五条一項を適用して、この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予することとし、判示各犯行により被告人の取得した現金約八万円は、同法一九条一項三号に該当するが、すでに消費されて没収することができないので、同法一九条の二により、右金額の一部金二万円を被告人から追徴することとし、訴訟費用の負担につき刑訴法一八一条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

この判決は、裁判官全員一致の意見によるものである。

(裁判長裁判官 石坂修一 裁判官 五鬼上堅磐 裁判官 横田正俊 裁判官 柏原語六 裁判官 田中二郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例